「BTSを読む」を読みました

 一年近く積ん読していた「BTSを読む」を読み終えたのでその事について書きます。

 ちなみにこの記事、本の要約あり、図解あり、個人的意見ありの非常にまとまりの悪い出来になっています。あらかじめご了承ください<(_ _;)>

目次

それは"義務"から始まった

「BTSが世界中で人気」の理由を一言で

大衆化するヒップホップとアーティスト化するアイドル

"トップダウン"型ではなく"スクラム"型

BTSが世界的人気を得るまで

 

 それは"義務"から始まった 

 まず、自分のBTSに関するプロフィールを軽く。
 2018年の暮れにK-POP沼に入り、BTSを聴くようになったのはそれからさらに数か月後。なかなか自分の中でしっくり来る楽曲が出てこなかったものの聴き続けた理由は、この時既に韓国でもトップスターで「BTSを聴かずしてK-POPを語るべからず」という空気があるのでは、という自分の勝手な思い込みが一つ。それと、ブラックミュージック専門誌の編集長や、某大学でアメリカのポップカルチャーを研究されている教授など、日本国内でも音楽/ヒップホップ通でBTSを推す方がいらっしゃるので「聴かんとあかんかなぁ」という”義務”みたいな感じで聴いていました。

 このMVに出会うまでは。

youtu.be

 「Not Today」のMVはサウンド、ダンス共に衝撃でした。 特に最後に7人が横一列に並んでステップを踏むシーンは、何度見ても鳥肌もの。
 「応援歌ソング」とカテゴライズしていいものなのかわかりませんが、歌詞もそれまでの男性ボーカルグループが歌う「頑張っている君が好き♥」か「がんばれ 未来は明るい!」というウルトラポジティブな内容ではない。「負ける時が来るだろう でもそれは今日じゃない」「まだ死ぬには幸せすぎる」という”土壇場感”を感じる内容で、「アイドルがこんな歌を歌うんだ」と意外性に驚きました。

BTSが世界中で人気」の理由を一言で

 BTSはいろんな魅力を凝縮したグループであるため、世界中で人気が出た理由を出しても、満場一致の答えというのは出てこないでしょう。
 ただ、一言でいうと

時代に選ばれた。

「時代に選ばれた」って表現が受動態のせいか、「棚ぼた感」ある変な言葉ですが、もちろんそんなことはなく、背景にはメンバーの使命感や底知れぬ努力があるのは言うまでもなく、そんな彼らの思想や活動を含めて多くの人に愛されている。

 RPGだって、勇者の剣を引き抜いた青年が厳しい修行と仲間たちの絆とで魔王を倒すストーリーだからこそみんなのめり込むのであって、「その辺の若者が偶然剣引き抜いて、戦略のないまま魔王に勝った」とかいうストーリー構成では、スク◯ア◯ニックスの商売なんて成り立たないわけです。
(〇には同じカタカナが入ります(どうでもいい))。

大衆化するヒップホップとアーティスト化するアイドル

 BTSの沼って、知識の範囲が多岐に渡りすぎて、沼っつーか海じゃね?と思うことが多々あります。「BTSを読む」は著者のキム・ヨンデさんがBTSの成功について限りなく正解に近いものを出そうと試みており、インタビュー対象者も音楽関係者に留まらず、ARMYや文芸評論家など多岐に渡っています。

 で、本書の中で印象に残った話をまとめたくて何枚か図解にしてみました。最初の2枚は、韓国とヒップホップの関係について。

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 さっき「BTSは時代に選ばれた」と書きましたが、”時代”を定義するのも難しく、ネット社会やら格差拡大やらいろんな側面がありますが、音楽に絞ると「ヒップホップ」というキーワードが出てきます。今、生誕の地アメリカと韓国で最も成功しているジャンルでしょう。韓国の"ラッパー人口密度"は、おそらくアメリカに匹敵するのではないでしょうか。

 ヒップホップが韓国のアイドルの楽曲で使われ始めたころは、さほどメジャーでもなく、H.O.T.がラップを取り入れた「戦士の末裔」をリリースした当時も「ヒップホップするアイドル」についてはそこまで議論は起こらなかったそうです。

 それが2010年代からヒップホップが韓国でメジャー化し、音楽ファンの間で放っておけない話題になった。「ヒップホップとアイドルは相対するもの。両方できるわけがない」という意見が大方を占め、初期のBTSも批判の対象となっていきます。

 しかしこの批判を突破せずしてBTSの大成はあり得ない。キム・ヨンデさんに加え、本書のインタビュー対象者ので自らを「ヒップホップ・ジャーナリスト」と名乗るキム・ボンヒョンさんは、BTSのラップラインのスキルを、声楽家のイム・ヒョンジュさんはボーカルラインのスキルを高く評価しています。さらにボンヒョンさんは、アイドルとヒップホップを、対になるものや別々に考えず、「双方が共に新しいステージへ進んだ」とポジティブに受け止めるべき、と主張しています。

"トップダウン"型ではなく"スクラム"型

 次の2枚はBTSとそれ以前のアイドル/ボーカルグループの変化について。「歌が上手い」だけではここまで見過ごせないグループにはなれず、これこそBTS飛躍の重要な要因でしょう。

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 K-POPにハマって以降、日本と韓国のアイドル文化の異なる面を沢山知りましたが、本書のBTSとの比較については、欧米のボーカルグループとの違いに話が度々及んでいます。

 2020年に「メイキング・オブ・モータウン」というドキュメンタリー映画が公開されました(現在Netflixで視聴可能)。モータウンレーベルはダイアナ・ロススティーヴィー・ワンダーなど、実力派シンガーを多数抱えていましたが、楽曲製作含めプロデュース全般は創設者のベリー・ゴーディ・Jr.が管理していました。そのベリー・ゴーディは、マーヴィン・ゲイが「What's Going On」をリリースするまで「社会に関する歌は歌わせない」というポリシーも持っていた(なのでマーヴィンも「What's〜」リリースには説得に説得を重ねたとか)。この思想は50年近く(日本含め)様々なアイドル/ボーカルグループに引き継がれています。

 ところがHYBEとBTSの関係はその逆を行っている。メンバーたちがそれぞれが自分たちで考えながら積極的に楽曲製作に参加するし、現代社会に生きる苦悩も歌う。そしてトップはむしろそれを奨励する。

 本書で「I NEED YOU」を作曲した、ブラザー・スーさんがHYBEの楽曲製作について明かしています。彼の話から、製作過程が従来の「トップダウン型」でないのは明らかですが、じゃあ「ボトムアップ型」なのかというと勿論そんな単純な話ではない。

 IT業界の用語で「スクラム開発」というものがあります。これはチームメンバーが確固たる役割は持たず、それぞれ責任感を持ってプロダクトの完成に導く開発手法のこと。従来との大きな違いは、リーダー的存在はいるものの命令する立場ではなく、チーム内外のコミュニケーションを円滑にする役割がメインです。HYBEのやり方は、これに近い気がします。しかも興味深いのは、メンバーはグループ活動とは別にミックステープもリリースするため、メンバーが"リーダー的存在"を担う時もある。

 こうして実力と自立心の両輪で一般リスナーまで唸らせ、ファンたちは彼らの言動を理解しながら作品の思いを分かち合って強いネットワークを作り上げてきた。

BTSが世界的人気を得るまで

  最後の1枚は本書からインスパイアされて私が考えたもので、左から右にかけてK-POPに馴染みのあるカテゴリから、縁遠いカテゴリになっています。左から右の人々に受け入れられるにつれ、どんどんファンが増えていった。中に書いている文は本書から抜粋させていただきました。

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 「BTSを読む」は一つ一つのコラムやインタビューは長くないので読みやすいですが、楽曲レビューもあり、トータル約300頁とボリューム満点。レビューは「LOVE YOURSELF」までなので続編にも期待。

 しかしながら、今回の本は「プロの視点」が殆どです。もちろん重要ですが、アイドルというメッセージの"送り手"は特に、ファンである"受け手"の反応あってこそ進むべき道が分かってくる。
 次の記事は、今や"世界最強の受け手の一つ"となったと言っても過言ではない、ARMYの視点から書かれた「BTSとARMY」について書きます。